1000文字以内で、推理小説を書いてください。冒頭部分のみお願いします。横溝正史が書くような、陰鬱で不気味な村の風習にまつわるストーリーをください。
蛇喰村の贄
季節はずれの雪が、音もなく辺りを白く染め上げていた。東京から汽車とバスを乗り継ぎ、さらに山道を半日歩いた末にたどり着いたその村は、地図からも消えかかったような、時代の澱（おり）のような場所だった。名は蛇喰（へびくい）村。この地に伝わる奇妙な風習に関する調査のため、民俗学者の私は足を踏み入れた。
村の入り口に立つ鳥居は、木肌が腐り落ち、不気味に歪んでいた。注連縄（しめなわ）には、おびただしい数の蛇の干からびた皮が巻き付けられ、風に揺れるたび、カサカサと乾いた音を立てる。まるで生き物のささやきのように聞こえ、背筋に冷たいものが走った。
村に入ると、さらに異様な光景が広がっていた。どの家屋も煤けて黒ずみ、窓という窓は固く閉じられている。人影はまばらで、時折すれ違う村人の顔には、妙な諦めと怯えが入り混じっていた。誰もが私のことを奇異の目で見てくる。外からの人間が来るのは、よほど珍しいのだろう。
村長の家を訪ねた私は、古びた座敷に通された。奥から現れた老村長は、顔全体に深い皺を刻み、その瞳は雪解け水のように濁っていた。
「まさか、このような時期にお客様がおいでになるとは」
老村長の言葉は、歓迎というよりは、むしろ迷惑そうな響きを含んでいた。私がこの村の**「贄（にえ）の儀式」**について調べていることを告げると、老村長はそれまで俯いていた顔をゆっくりと上げ、私の目をじっと見据えた。その眼差しは、底なしの沼のように暗く、私を不安にさせた。
「贄の儀式、でございますか……。それは、この村の…いえ、この地の血に深く根ざした古くからの習わし。むやみに詮索なさらぬがよろしい」
その夜、私が滞在する唯一の宿の女将が、膳を運びながら小さな声で忠告した。
「先生、明日の晩は、どうか決して外へお出にならないでくださいまし。明日からは、禁忌の七日でございますから」
女将の顔は青ざめ、その手は小刻みに震えていた。禁忌の七日。その言葉を聞いた瞬間、私は自分の調査資料の中に、この村で七年に一度行われるという、ある記述を思い出した。それは、村の守り神とされる巨大な白蛇に、生贄を捧げるという、おぞましい風習だった。
その晩、私の部屋の障子の外から、微かなすすり泣きが聞こえてきた。そして、それに重なるように、遠くで不気味な唄が響き渡る。それは、人間の声ともつかない、粘りつくような低い響きで、私の心臓を直接掴まれるような不快感を与えた。
翌朝、私は村の広場に集まる村人たちの姿を見た。皆、異様に沈んだ表情をしている。広場の中央には、古びた祭壇が設けられ、その上には見たこともない奇怪な紋様が描かれた布が敷かれていた。そして、その祭壇の傍らには、白い着物を着せられた幼い少女が、うつむいて立っていた。
私の全身に、冷たい衝撃が走った。まさか、生贄とは……。
その時、老村長が私の隣に音もなく現れた。その顔には、昨晩の不機嫌そうな表情とは異なる、どこか満足げな、しかし凍り付くような笑みが浮かんでいた。
「さあ、先生。今宵より、いよいよ本番でございます」
彼の視線は、広場の中央ではなく、私のかばん、その中の調査資料にちらりと向けられた。私は鳥肌が立った。まるで、この村の全てが、私という異物を待ち受けていたかのように思えたのだ。この村の奇妙な風習、不自然な村人の態度、そして、この幼い少女の生贄。全てが絡み合い、この閉鎖された空間で、おぞましい悲劇が幕を開けようとしていた。
