1000文字以内で、叙述トリック小説を書いてください。冒頭部分のみお願いします。普段はほのぼのとした主人公は、のっぴきならない状況のとき、鋭い指摘を投げかけるが、まったく威圧感はなく、話を聞いてもらえる愛嬌すらある。ほんわかしたキャラクターと論客としての切れ味の良さのギャップがクセになるようなストーリーをください。

静かな午後の陽射しが、古びた木造平屋の縁側をじんわりと温めていた。猫のミーちゃんは、いつものように私の膝の上で丸くなり、喉をゴロゴロと鳴らしている。私は熱い麦茶をすすりながら、庭の隅で風に揺れる紫陽花をぼんやりと眺めていた。ああ、平和だなぁ。

「ただいまー」

明るい声と共に、姪のユキちゃんが玄関から顔を出した。小学三年生のユキちゃんは、ランドセルを放り出すと、すぐに私のところに駆け寄ってくる。

「おじちゃん、大変なの!」

息を切らせたユキちゃんの顔は、いつもニコニコしているのに、今日は珍しく心配そうだ。

「どうしたんだい、ユキちゃん? 宿題でも忘れたのかい?」

「違うの! あのね、さっき公園でね、ケンタくんが飼ってるカメの『カメ吉』がいなくなっちゃったんだって!」

カメ吉がいなくなった? それは一大事だ。ケンタくんは、ユキちゃんのクラスメイトで、カメ吉をとても大切にしているらしい。

「それは大変だね。一緒に探してあげようか?」

私が立ち上がろうとすると、ユキちゃんは首を横に振った。

「ううん、もうみんなで探したんだけど見つからないの。それでね、ケンタくんが泣いちゃって…」

泣き虫のケンタくんが泣いているとなると、事態は深刻だ。私はミーちゃんをそっと膝から下ろし、ユキちゃんと一緒に玄関に向かった。

公園に着くと、数人の小学生たちが地面を這いつくばって何かを探していた。ケンタくんは、大きな目を真っ赤にして、遊具の陰に座り込んでいる。

「ケンタくん、大丈夫かい?」

私が声をかけると、ケンタくんは顔を上げて、今にもまた泣き出しそうだった。

「カメ吉がいなくなっちゃったんです…ぼくの、大切なカメ吉…」

「うんうん、わかるよ。カメ吉はどこかに行っただけだよ、きっと。みんなで探せば、きっと見つかるさ」

私はそう言って、あたりを見回した。公園はそれほど広くはない。カメが隠れるような場所も、せいぜい茂みの中や砂場の隅くらいだろう。

みんなでしばらく探してみたけれど、カメ吉は見つからなかった。日が傾き始め、子どもたちの顔にも焦りの色が濃くなってきた。

その時、私はふと、あることに気がついた。

「ねぇ、ケンタくん」

私がしゃがんでケンタくんに話しかけると、彼は潤んだ瞳で私を見上げた。

「カメ吉がいなくなったのは、本当に『今日』なの?」

私の声は、いつものほんわかとした調子と変わらない。けれど、その言葉の選択は、周囲の空気を一瞬だけピリッと凍らせたような気がした。誰もが顔を見合わせ、その言葉の真意を探るように、私を見つめ返した。私自身は相変わらず、どこか気の抜けた表情で、穏やかに微笑んでいるだけだ。しかし、私の言葉がケンタくんの心に何らかの疑念を植え付けたことは、彼の微かに揺れる瞳が物語っていた。

「え、えっと…だって、今朝までいた、ような…」

ケンタくんの声が小さく、自信なさげに聞こえた。その様子に、他の子どもたちも「え、そうなの?」といった表情で、ざわめき始める。

「じゃあ、確認だよ。今朝、カメ吉がいたのは、どこで、どういう風にいたんだい?」

私はゆっくりと、まるで絵本を読み聞かせるかのように穏やかな口調で尋ねた。しかし、その質問はまるで、絡まった糸を解きほぐすための、最初の引っかかりを見つけたかのように、核心を突いていた。ケンタくんは、それまで当然だと思っていた前提を揺さぶられ、戸惑ったように口をパクパクさせた。このほんわかとしたおじちゃんの、まるで鋭利なメスのような問いかけが、この平和な午後の空気の中に、小さな波紋を広げ始めたのだ。

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