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その本は、最初からそこにあったわけではない。

あなたは、雨の日の午後に立ち寄った薄暗い古書店の、整理もされずにうず高く積まれた棚の隅でそれを見つけた。背表紙には何の文字もなく、ただざらざらとした灰色の布で覆われている。手に取ると、驚くほど軽い。まるで中身がすべて空白であるかのように。

あなたが何気なくその表紙を開いたとき、指先に微かな摩擦熱のようなものを感じたはずだ。だが、あなたはそれをただの気のせいとして片付け、最初のページに視線を落とした。

活版印刷のような、少し潰れた書体で、そこにはこう書かれていた。

1
あなたは今、埃っぽい古書店の片隅で、灰色の表紙の本を開いている。
外では激しい雨がアスファルトを叩いており、店内に響くのは古いラジオから流れる歪んだジャズと、あなたの自身の規則正しい呼吸音だけだ。
あなたの右手は、この本のページの端を掴んでいる。

  • このまま読み進めるなら、2へ進め。
  • 本を閉じて棚に戻し、店を出るなら、3へ進め。

あなたは小さく息を呑んだ。胸の奥が冷たくなるような感覚が走る。
偶然にしては、状況が一致しすぎている。外の雨、ラジオのジャズ、そしてあなたの手の位置まで。あなたは顔を上げ、周囲を見回した。店主は帳場の奥で居眠りをしており、こちらを監視している様子はない。誰かの悪戯だろうか。それにしては、この本がここに置かれたタイミングが完璧すぎる。

あなたは少し乾いた唾を飲み込み、迷った末に、親指でページをめくった。


2
あなたは好奇心に抗えず、ページをめくることを選んだ。
賢明な選択だ。物語はすでに始まっており、中途半端に逃げ出すことなど、あなたには最初からできなかったのだから。

あなたは本をコートのポケットに忍ばせ、店主に気づかれないように素早く店を出た。冷たい雨があなたの頬を濡らす。あなたは家路を急ぐ。

  • アパートに帰り、自室でじっくりと読むなら、4へ進め。
  • 途中の喫茶店に立ち寄り、人目の冷たさを遮るなら、5へ進め。

「万引きをしろと言うのか?」
あなたは心の中で呟いた。それは犯罪だ。しかし、あなたの右手はすでに、コートのポケットの中でその本のざらついた感触を確かめている。
あなたは自分がいつの間にか、古書店の自動ドアをくぐり、雨の降る通りに出ていたことに気づく。帳場の店主は一度も目を覚まさなかった。ポケットの中の本が、あなたの体温を吸い上げて、じっとりと熱を帯びていく。

あなたは自分の意志で歩いているつもりだったが、足は勝手に馴染みのあるアパートへの道を辿っていた。


4
あなたはアパートの自室に戻り、濡れたコートをハンガーに掛けた。
鍵を閉め、チェーンをかける。これであなただけの空間だ。

あなたは温かい飲み物を用意することもなく、デスクの椅子に腰掛け、再び本を開いた。部屋の空気は妙に重く、湿っている。

  • 部屋の明かりをすべて点けてから読むなら、6へ進め。
  • 手元のデスクライトだけで読むなら、7へ進め。

あなたはいつの間にか、アパートの部屋にいた。
コートをハンガーに掛け、玄関の鍵を閉め、チェーンをかけた。そこまでは、あなたの日常のルーティンだった。しかし、本を開いた瞬間、そこに書かれている「あなた」の行動が、現在のあなたの肉体の動きと完全に同期していることに、強烈な目眩を覚えた。

あなたは背筋に冷たいものが走るのを感じながら、右手を伸ばした。
部屋を明るくしたかった。この不気味な現象の正体を、白日の下に晒したかった。あなたは壁のスイッチを押し、部屋のシーリングライトを点灯させた。

しかし、パチリという音が響いただけで、部屋は暗いままであった。電球が切れたわけではない。まるで光そのものが、この部屋の空気に吸い込まれてしまったかのように、ただ薄暗い影が引き伸ばされただけだった。

あなたは恐怖に震える手で、デスクライトのスイッチを入れた。それだけは、かろうじて小さな黄色い光の輪を机の上に落とした。

あなたは諦めて、7のページを開く。


7
あなたは手元だけを照らす不十分な光の中で、文字を追っている。
部屋の隅にあるクローゼットの暗闇が、まるで生き物のようにあなたを見つめている気がして、あなたは何度も振り返りそうになる。

だが、振り返ってはならない。
視線を本から逸らせば、ゲームはそこで中断され、あなたの存在もまた、中途半端なページの間で凍りつくことになるだろう。

さあ、次の行動を決めなくてはならない。
あなたの携帯電話が、デスクの上で突然震え始める。ディスプレイには「非通知」と表示されている。

  • 電話に出るなら、8へ進め。
  • 電話を無視して、読書を続けるなら、9へ進め。

ジジジ……と、バイブレーションの音が静まり返った部屋に響いた。
心臓が跳ね上がる。
あなたは視線を本に落としたまま、左手でデスクの上を探った。指先がスマートフォンの冷たいガラスに触れる。画面には、本に書かれている通り「非通知設定」の文字が緑色に光っていた。

息が詰まる。この本は、未来を決定しているのか。それとも、あなたの行動を監視している何者かが、リアルタイムでこのテキストをあなたの脳内に直接書き込んでいるのか。

あなたは電話に出る勇気がなかった。もし、受話口から聞こえてくるのが、自分の部屋の空気の音や、自分自身の呼吸音だったら、正気でいられる自信がなかったからだ。

あなたはスマートフォンを伏せ、無視することを選択した。
震動が止まり、部屋に再び沈黙が戻る。あなたは震える指で、9のページをめくった。


9
あなたは賢明にも(あるいは臆病にも)電話を無視した。
スマートフォンの画面は消え、沈黙が戻った。だが、その沈黙は本当に安全なものだろうか?

あなたが電話に出なかったことで、発信者は別の手段を選ぶことにしたようだ。

トントン、と。
あなたの部屋の玄関のドアが、静かにノックされた。

  • ドアを開けて、外の様子を確かめるなら、10へ進め。
  • 完全に無視して、耳を塞ぐなら、11へ進め。

心臓の鼓動が耳の奥で爆音のように鳴り響いた。
直後。
トントン。
乾いた、しかし執拗な音が、廊下の向こうから聞こえてきた。

「ひっ……」と、あなたの喉から短い悲鳴が漏れた。
誰かがいる。ドアの向こうに、確実に誰かが立っている。
あなたはチェーンをかけたことを思い出し、少しだけ安堵した。しかし、この本が現実を支配しているのだとしたら、チェーンなどという物理的な金属片に、何ほどの意味があるというのだろう。

あなたは席を立つことができなかった。足が床に張り付いたように動かない。耳を塞ぎたい。この現実から目を背けたい。

あなたは11のページを、むしり取るような勢いでめくった。


11
あなたは恐怖に屈し、耳を塞いで現実を拒絶した。
しかし、忘れてはならない。この本に書かれた文字こそが、今のあなたの唯一の現実なのだ。

耳を塞いでも、ノックの音は止まない。それどころか、音が少しずつ近づいてくる。
トントン。トントン。
音は玄関からではなく、今度はアパートの薄い壁を伝って、あなたのすぐ後ろから聞こえる。

そう、クローゼットの扉の裏側からだ。

  • クローゼットの扉を勢いよく開けるなら、12へ進め。
  • 本を抱えて、窓から外へ飛び降りるなら、13へ進め。

背筋が完全に凍りついた。
あなたは首を動かすことができなかった。だが、デスクライトの光の届かない、背後の暗闇から、確かに音が聞こえる。
トントン。
木を叩く、軽くて冷たい音。それは間違いなく、あなたが毎日服を出し入れしている、あのクローゼットの中から響いていた。

何かが中にいる。
本はあなたに、それを開けるか、それとも2階の窓からコンクリートの地面へと飛び降りるかの選択を迫っている。どちらを選んでも、破滅しか見えない。

「嫌だ……」
あなたはついに声を漏らした。
「こんなものは、ただの本だ。私は私の意志で動く。お前の指示には従わない!」

あなたは立ち上がり、本をデスクの上に叩きつけた。
本を閉じれば、すべてが終わるはずだ。これはただの奇妙な印刷物だ。催眠術か、たちの悪い幻覚に違いない。

あなたは両手で灰色の表紙を掴み、力任せに閉じようとした。

しかし、本は閉じなかった。
ページの間に見えない鋼鉄の板でも挟まっているかのように、表紙は1ミリも動かない。それどころか、あなたの意思に反して、本のページがパサパサと音を立てて勝手にめくれ始めた。

あなたは手を離そうとしたが、指先が紙の繊維に吸い付いて離れない。
ページが高速でめくれ、ある特定のページでピタリと止まった。
そこには、今まさにあなたが取っている行動が、歪んだ文字で書き殴られていた。


14
あなたはルールを破り、本を閉じようとした。
あなたは自分の自由意志を信じたがっている。だが、その「自由意志」さえも、この書物に記述された既定のルートに過ぎない。

あなたがルールを拒絶したため、この物語は「異常終了」を選択せざるを得なくなった。

あなたの足元を見てごらん。

  • 足元を見るなら、15へ進め。
  • 見ないように抵抗するなら、16へ進め。

あなたは本から手を離すことができず、ただ呼吸を荒くして立ち尽くしていた。
足元?
見たくない。見れば、何かが取り返しのつかないことになっているに違いない。
あなたは必死に天井を見上げ、視線を逸らそうとした。しかし、あなたの首は、まるで精巧な操り人形の糸を引かれるように、ぎちぎちと音を立てて下を向いていく。

あなたの視界に、自分の足元が入る。

床が、消えていた。
そこにあるのは、底知れない黒いインクの沼だった。
あなたのスリッパはすでにそのドロドロとした黒い液体に沈み込んでおり、冷たい粘り気のある感覚が、足首を通り越してふくらはぎへと這い上がってきている。
それはインクだ。この本を形作っている、文字のインクそのものだ。

あなたは叫ぼうとしたが、喉が締め付けられて音にならない。


16
あなたは必死に抵抗したが、無駄だった。
あなたの肉体はすでに、この物語を構成する「インク」へと還元されつつある。

あなたという存在は、この世界から消え去るのではない。
この灰色の本の一部となり、次にこの本を手に取る「新たな読者」のための記述へと書き換えられるのだ。

インクは今、あなたの胸に達した。
あなたの意識は、文字の羅列へと溶けていく。

最後に、あなたはどちらの結末を望むだろうか?

  • 警告の書として、次の読者にこの恐怖を伝える記述になるなら、17へ進め。
  • 次の読者を罠に陥れるための、魅惑的な誘い文句になるなら、18へ進め。

体中が冷たいインクに満たされていく。
あなたの腕はすでに黒い液体へと変わり、デスクの上に広がり、本の中へと吸い込まれていく。
あなたの脳裏に、かつてこの本を手にして、あなたと同じように選択肢を選び、そして消えていった者たちの無数の「声」が響いた。
彼らもまた、この本の1ページ、1行、1文字となって生き続けているのだ。

あなたはもう、自分が誰だったのかを思い出せない。
ただ、目の前にある本が、あなたの最後の選択を待っている。

あなたは、最後の力を振り絞り、まだかろうじて動く指先で、一つの選択肢を指差した。


17

あなたは、次の哀れな犠牲者のために、精いっぱいの警告を残すことを選んだ。
あなたの魂は、この本の最初のページへと引き戻される。

激しい雨の音。
古いラジオから流れる歪んだジャズ。

そして、新たな「あなた」が、古書店の隅でこの灰色の本を手に取る。

あなたは、その「あなた」に向けて、最初の文字を紡ぎ始めるのだ。

「あなたは今、埃っぽい古書店の片隅で、灰色の表紙の本を開いている……」

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