20XX年3月12日 音声記録 (残り時間:47分12秒)
「……今、話してるだけで、君の時間が減ってるよ。ごめん。もう、聞かないで。録音だけ、残して」
同日 メール (送信者:A)
件名:なし
本文:
今日、君の声が聞けなくなった。
代わりに、手紙を書く。
君が最後に言った「好きだ」は、18分消費した。
その18分、どこへ行ったんだろう。
20XX年3月15日 手紙 (宛先:B 未送信)
Bへ。
君が沈黙を選んだ日、街の時計が全部止まった気がした。
言葉を吐き出せば、寿命が削れる世界で、君は最後に「ありがとう」とだけ言った。
その二語で、残り時間が23分になった。
今、手紙を書いている。文字は時間を使わない。
だから、こうして君に、ずっと話しかけ続けられる。
20XX年3月18日 音声記録 (残り時間:9分03秒)
「……もう、ほとんど喋れない。
でも、君にだけは、伝えたいことがあった。
……(沈黙 7秒)
……ごめん。もう、切る」
同日 メール (送信者:C グループチャット抜粋)
C:Aが最後に残した声、誰か保存してる?
D:保存しても、聞くたびに時間が減る。
C:でも、聞かないと、Aが消える。
(以降、メッセージなし)
20XX年3月20日 手紙 (BからAへ 未達)
A。
君が沈黙を選んだあと、僕は毎日手紙を書いている。
君の最後の言葉を、文字に置き換えて、時間を守ろうとしている。
でも、君の声が恋しい。
もし、君がこの手紙を読めたら、
返事は、沈黙のまま、いい。
それで、十分だ。
20XX年3月22日 音声記録 (残り時間:00分41秒)
「……B。
最後に、君の名前を呼ぶ。
……(11秒の沈黙)
……好きだ」
20XX年3月23日 メール (自動返信)
件名:配信停止のお知らせ
本文:
このアカウントの所有者は、残り時間をすべて消費しました。
以降のメッセージは、文字のみで受け付けます。
——システム
20XX年3月25日 手紙 (Bの日記風メモ)
Aの最後の声は、41秒だった。
それを聞くのに、僕の時間は1分減った。
でも、Aの「好きだ」という言葉は、僕の中に残っている。
言葉は消えても、沈黙は残る。
これから、僕は手紙を書き続ける。
君が、いつか、文字の向こうで微笑むかもしれないから。
(以降、記録は途絶えている)