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朝七時、スマホに短い通知が届く。送信元は表示されない。内容はいつも同じ形式だった。

「今日の天気は晴れ。最高気温二十三度。風は北東から弱く。」

佐藤美咲はベッドの中で通知を開いた。夫の浩二が亡くなって三ヶ月。毎朝のこの文章は、最初は気象庁の誤送信だと思っていた。だが三日目、浩二のスマホに登録されていた番号から送られていることに気づいた。美咲は返信しなかった。ただ、窓を開けて空を見上げた。

浩二の葬儀のあと、美咲は会社を休み続けた。今日もカーテンを閉めたままソファに座り、浩二の遺品を一つずつ箱に詰めていた。通知の「晴れ」という言葉が、妙に背中を押す。彼女は久しぶりに外に出て、近所の公園を歩いた。風は確かに北東から吹いていた。

二日目。

「今日の天気は曇り。午後から雨の可能性あり。洗濯物は室内で。」

美咲は通知を見て小さく笑った。浩二は生前、洗濯物を外に干すのを嫌がっていた。雨が降り始めると、彼女は浩二の古いコートをクローゼットから出して羽織った。コートのポケットから、浩二の書きかけの手帳が出てきた。そこには「美咲の誕生日、予約を忘れるな」とだけ書かれていた。

三日目。

「今日の天気は雨。傘を忘れずに。君の好きな喫茶店、今日も開いている。」

美咲は通知を二度読み直した。「君の好きな」と書かれていた。気象情報にこんな言葉は入らない。彼女は傘を差して、浩二と初めてデートした喫茶店に向かった。店内は空いていて、窓際の席に座った。雨の音が心地よく、浩二が隣にいるような気がした。

四日目。

「今日の天気は晴れ。最高気温二十五度。君が笑うと、世界が少し明るくなる。」

美咲は息を飲んだ。通知の文が、明らかに私信めいてきた。彼女は会社に復帰した。机の上で同僚が「おかえり」と声をかけてくれた。昼休み、浩二の写真をスマホの壁紙に戻した。

五日目。

「今日の天気は晴れ。風はほとんどない。君が泣かないでほしい。」

美咲は通知の前で立ち止まった。涙がこぼれた。浩二は生前、彼女が泣くのを何より嫌っていた。彼女は会社帰りに墓参りに行き、墓石に手をかざした。

「ありがとう」と小さく呟いた。

六日目。

「今日の天気は曇り。午後、君の好きな音楽がかかる場所に行くといい。」

美咲はラジオを付けた。浩二が好きだった曲が流れ始めた。彼女は初めて、通知に返信を打った。

「浩二?」

返事は来なかった。代わりに翌朝の通知が届いた。

「今日の天気は晴れ。最高気温二十二度。君が元気なら、それでいい。」

美咲は窓を開けた。空は本当に晴れていた。

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