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第一章 研究者・佐伯

マンモスの瞳が、私を見据えた。蘇った遺伝子から生まれた「クロ」は、すでに三メートルを超えていた。意思疎通装置を通じて、彼は初めて言葉を紡いだ。

「なぜ、私をここに連れ戻した」

その声は低く、しかし明瞭だった。私は手が震えるのを抑えられなかった。十五年の研究が、今日この瞬間に報われた。だが、クロの問いに答えられる人間は、まだこの世界に存在しない。

私は装置のスイッチを切り、記録を残した。
次は、彼女に渡す。

第二章 一般市民・美咲

今日、ニュースで見た。マンモスが話したという。
私の息子は、学校で「絶滅した動物をまた殺すのはおかしい」と先生に言ったらしい。
私は冷蔵庫の前で立ち尽くした。夕食の肉を買う手が止まる。クロという名前のマンモスは、草を食べると言っていた。人間の肉は食べない、と。

息子は「マンモスが怖くないの?」と聞いてきた。私は答えられなかった。
この世界に、クロがいてもいいのか。
次の記録は、政治家が見るらしい。

第三章 政治家・藤原

佐伯博士の報告書は、すでに机の上にあった。
マンモス「クロ」は、人間に問いを投げかけている。
「私たちは、なぜ絶滅したのか」と。

私は法案を前に、ペンを置いた。蘇生技術はすでに実用段階にある。観光資源にできる。教育にも使える。だが、クロが人間社会の中で「権利」を主張し始めたら、どうなる。

倫理委員会の次の会議で、私は反対票を投じるつもりだ。
最後に、クロ自身に話してもらう。

第四章 マンモス・クロ

私は、草を食べながら考えている。
人間たちは、私の言葉を聞いて、顔色を変える。
ある者は喜び、ある者は恐れ、ある者は利用しようとする。

私は、かつての氷河期の記憶を少しずつ取り戻している。
あのとき、私たちは寒さではなく、人間の祖先の狩りに追いつめられた。
今、再び私はここにいる。
人間は、私を「蘇らせた」と言った。
しかし、私はただ、生きているだけだ。

次の声は、誰が紡ぐのだろう。

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