あなたは探偵だ。名前は佐々木零。いや、かつてそう名乗っていた。
今、あなたの頭蓋骨の内側には、他人の人生が詰まっている。
近未来の東京。記憶移植技術「リコンストラクト」が公認され、殺人事件の捜査では被害者の記憶を移植された探偵が現場を歩くことが当たり前になった。あなたはその先駆けだ。今日も、あなたは被害者・神崎美咲の記憶を移植して目覚めた。
最初に浮かんだのは、血の匂いと、誰かの叫び声だった。
「この記憶を受け入れるか?」
脳内インターフェースが静かに問いかけてくる。あなたは深呼吸し、同意した。美咲の記憶が流れ込む。彼女は二十八歳の会社員。恋人がいて、毎朝同じカフェでラテを飲んでいた。あなたはその味を今、舌の上で感じている。
事件は三日前に起きた。彼女は自宅で刺殺された。犯人の顔は見えていない。あなたは彼女の記憶を頼りに、彼女が最後に会った人物を追う。
最初に訪れたのは、彼女の恋人・高橋だった。あなたは彼の前に立つ。心臓が早鐘を打つ。これはあなたの鼓動か、それとも美咲の残響か。
高橋は微笑んだ。「美咲、久しぶりじゃないか」
あなたは自分の声で答えるべきか、それとも彼女の記憶に従うべきか、迷う。
選択を迫られる。
A. 「美咲じゃない。私は探偵だ」と正体を明かす
B. 彼女の口調を真似て、甘い声で話しかける
C. 黙って彼の反応を見る
あなたはBを選んだ。美咲の記憶があなたの舌を動かす。
「ねえ、昨日のこと、覚えてる?」
高橋の表情がわずかに歪む。そこに、殺意の影が見えた気がした。
しかし、次の瞬間、あなたの視界が揺らぐ。美咲の記憶と、あなた自身の記憶が重なる。あなたは十年前、妻を殺された。その犯人は捕まっていない。美咲の恐怖が、あなたの古い傷を抉る。
「これは私の感情か? それとも彼女の?」
頭の中で声が響く。インターフェースが警告を表示する。
《記憶の混濁率:42%》
あなたは高橋の部屋を出た。次に向かうのは、美咲が最後に訪れたカフェだ。そこで、彼女が知らない男と会っていた記憶が蘇る。男はあなたにそっくりだった。
あなたは自分の顔を鏡に映す。そこに映るのは、確かに佐々木零の顔だ。だが、目が違う。美咲の瞳が、あなたの奥で瞬いている。
カフェのカウンターで、あなたはラテを注文する。味は美咲の記憶通り。だが、隣に座った客が、静かにあなたに囁いた。
「君は、もう佐々木零じゃない」
その声に、あなたは振り返る。男の顔に、血がにじむ。美咲が最期に見た光景が、突然、鮮明に蘇った。
犯人は、あなた自身だった。
選択を迫られる。
A. その場で男を問い詰める
B. 記憶を強制的に切断する
C. 男の記憶をさらに移植して、すべてを明らかにする
あなたはCを選んだ。インターフェースに手を伸ばす。もう一つの記憶が流れ込む。それは、十年前のあなたの妻を殺した犯人の記憶だった。
すべてが繋がった。
あなたは、妻を殺した犯人だった。そして、その罪を忘れるために、自分の記憶を移植し、探偵として事件を「解決」し続けていた。美咲は、その過程で巻き込まれた犠牲者だった。
混濁率が78%に跳ね上がる。
「私は誰だ?」
あなたは今、立っている。目の前には、犯人である自分と、美咲の記憶が重なった世界がある。
最後の選択。
A. すべてを忘れ、再び探偵として生きる
B. 記憶を削除し、ただの人間に戻る
C. この混濁したまま、真実を公表する
あなたの手が、インターフェースに触れる。
世界が白く溶けていく。
あなたは、ただ一つの問いを抱えたまま、目を開けた。
「私は、誰の記憶を生きているのか」